以前「意外と知らない?!塗装ブースのカラクリ」にて水洗塗装ブースについてご紹介しましたが、塗装ブースにはもうひとつ、「乾式塗装ブース」があります。
一般的に、大量に塗装する場合は水洗ブース、少量や小さな製品を塗装する場合は乾式ブースのように使い分けられていますが、最近では乾式ブースのデメリット部分が解消され使用が見直されてきています。
こちらの現場でも、お悩みさんが乾式ブースの導入について何やらお悩みのようです。
新しく乾式塗装ブースを使い始めましたが、最初の頃は塗料ミストの捕集量も問題ありませんでした。
それなのに今は、なぜか塗料ミストがブースへ吸い込まれず、現場の空間に蔓延しています。
新しいはずなのになんでだろう・・・
おやおや、お困りのようですね。
塗料ミストの蔓延は作業者の健康を脅かす危険な存在ですよ~!
ささっ、この高品質な防塵マスクで作業者を守りましょう!
この状態を改善することはできないですか?
防塵マスクを購入しないと本当にいけないんでしょうか・・・
ちょっと待て!
吸い込みの悪さの原因は、フィルターの詰まりが原因かもしれません!
防塵マスクも大切ですが、フィルターの〇〇だけで改善は間違いなし!
出たな、塗装グリーン!
新しいブースなのにフィルターが詰まるなんて嘘に決まっている!
その考えが間違っているんだ!
塗装の頻度によってすぐにフィルターの目が詰まることもあり、これは捕集量低下の原因になります!
ええっ!知りませんでした!
まだ新しく使い始めたばかりで他にも乾式塗装ブースについて知らないことがありそうなので、詳しく教えてほしいです!
くそぅ・・・また邪魔をしおって・・・
いつか勝ってやるから覚えておれ~!!
「乾式塗装ブース」とは
乾式塗装ブースとは、ブース用フィルターなどを使用して塗料ミストを捕集する装置です。
また水洗ブースと同様に、塗料ミストを屋外へ放出させず、有機溶剤などの揮発したガスを作業現場から排出するための局所排気装置として役割も果たしています。
その構造は、大型ファンの力と陰圧(ブース背面が外側の圧力より低い状態)の力によってフィルター面から塗料ミストを含んだ空気を吸い込み、フィルター通過時に塗料ミストのみをろ過し、有機溶剤を含む空気は排気ファンより外部へ排出されます。
ですので、局所排気装置としての役割を果たすためには、塗料ミストを取り逃がさず捕集し、排気するための風速確を確保する必要があります。
乾式ブースの種類
乾式塗装ブースは、使用するフィルターの種類により大きく2つに分かれます。
①フィルター式
フィルター式とは、不織布やヤシ殻フィルターを使用して空気をろ過する塗装ブースです。
塗料ミストを確実に捕集できることが大きな利点ですが、フィルターの目を細かくすればするほどミストでフィルターの目が閉塞し、空気の流れが悪くなり塗装ブースの風速も落ちてしまいます。
ですので、フィルターを厚くすると捕集効率が高くなる効果を利用し、厚みをつけて立体的にろ過するように工夫を施しています。
➁トラップ式
トラップ式とは、ブース内部が迷路のように入り組んだ構造でバッフル板やアコーディオンフィルターを用いて塗料ミストを捕集する塗装ブースです。
↑アネスト岩田様HPより引用 |
フィルター式の欠点である風速低下を発生しづらく、下記の画像のように空気とともに吸い込まれた塗料ミストがトラップ式ブースの壁に当たり、その窪みでミストをキャッチし、空気だけがブース背面へ吸い込まれていきます。
粉体塗料のような乾いたミストは、溶剤塗料のようなウェット状のミストとともに吸い込まれると一緒に付着しますが、常に乾いたミストが発生する現場では、塗料ミストがトラップの壁に当たっても付着せず捕集することはできません。
フィルター式×トラップ式の乾式塗装ブース
①と➁で使用されているフィルターをうまく組み合わせることで十分な吸い込み風速を確保し塗料ミストを効率的に取り除くことで、安全な作業環境を構築できます。
基本的に、①で使用されるようなフィルターを用いた1次フィルターでウェットな塗料ミストを確保し、②を2次フィルターとして設置することで効率的に塗料ミストを捕集できます。
使用する塗料やミストの状態でフィルターの組み合わせを工夫してみてください。
乾式塗装ブースのメリット&デメリット
乾式塗装ブースはフィルターの組み合わせ次第で高い捕集効率を実現し、水洗塗装ブースと比較すると価格は低く、小物塗装や少量生産に適しているといえるでしょう。その一方で、現場の負担となりうるデメリットもあるため、導入前に必ずチェックしておくようにしましょう。
メリット | デメリット | |
乾式ブース |
・費用を抑えられる ・フィルター交換などのメンテナンスが簡単 ・小型のブースもあり、省スペース化が実現 |
・水洗ブースより捕集効率が低く、外部へ塗料が飛散する可能性がある ・フィルターのつまりにより吸い込みが悪くなりやすい |
水洗ブース |
・高い捕集効率 ・外部への塗料飛散がほとんどない |
・水が汚染したりスラッジによる腐敗臭 ・日々のスラッジ回収など水質管理の手間 ・産廃の発生 ・導入費用が比較的高め |
上記の表にメリット・デメリットを簡単にまとめましたが、中でも最も手がかかるのはフィルターの交換です。
フィルターは塗料を確実に捕集できることが魅力の一つですが、すぐにフィルターの目が詰まってしまい、その結果、吸い込みの低下や作業環境の悪化、さらにはオーバーミストの浮遊による塗装不良発生を招くため、定期的な交換は必要不可欠です。
ですが、一部の新型塗装ブースを除き、フィルターの交換はブースを完全に停止しなければできないため、塗装作業の時間ロスやフィルターの交換費用が発生し、生産性低下の原因になるかもしれません。
それは困るな・・・何か改善方法はないのかな?
そのお悩み、プレロールフィルターの併用で解決します!
プレロールフィルターとは乾式ブースの前に垂らす薄い不織布フィルターのことで、汚れたら目が詰まっている面を切り取り、新しいフィルターを引きおろすだけなので、誰でも簡単に取り扱うことができ、作業時間も節約できます。
↑パーカーエンジニアリング様HPより引用 |
プレロールフィルターの使用によりメインフィルターを交換する頻度が少なくなるため、手間や費用が浮き現場にとっても会社にとってもメリットがあります。
実際にこの方法を利用しているお客様は多いです!
粉体塗装専用乾式ブース
乾いたミストのみの環境では乾式ブースを使用することはできないと紹介してきましたが、実は“新たに登場したフィルター” を使用することで粉体塗料の微粒子を捕集することができるんです!
そのフィルターとは、「プリーツフィルター」です。
↑Nordson様HPより引用 |
プリーツ状に形成されたフィルターにより塗料ミストが付着する表面積を増やし、高いろ過性能を実現したフィルターです。
ただ使用するだけではなく、プリーツフィルターを定期的に排気側から強い空気圧で吹き飛ばす、「逆洗」を行うことで、吸着していた粉体塗料が落下しフィルターの詰まりが解消され、フィルターの交換なしでも捕集効率を維持しながら使用できます。
また、通常ブースの排気は屋外へ排出するようになっていますが、粉体塗料には有機溶剤等のガスが含まれていないので、ろ過後の空気を室内へ放出することができます。
空調ロスが起こらず、吸気量などを気にする必要がないことは大きなメリットですが、一方で粉体塗装専用乾式ブースはその名の通り、粉体塗装のための塗装ブースであるため、溶剤塗料や水性塗料を用いた塗装には使用することができません。
誤って使用してしまうと一発でプリーツフィルターの使用ができなくなるため、使用時は要注意です。
水洗塗装ブースとの比較、そして最新の乾式塗装ブースとは?
乾式ブースも水洗ブースも目的や役割は同じですが、それぞれに特徴があります。
一般的に乾式ブースは水洗ブースに比べ捕集効率が低く、塗料ミストの捕集量が少ないため量産に向かないというのが定説でした。
しかし、段ボールを使用した立体的な大型トラップを活用して捕集量を増やしたり、使用する2次フィルターに目の細かいフィルター組み合わせて捕集効率をアップさせるといった工夫が結果を生み、最近は量産ラインでも乾式ブースの採用が増えてきています。
また、このような高性能な乾式ブースは、塗料の水性化推進により有機溶剤等が含まれなくなったことから、今までは排気していた“塗料ミストを除去した空気”を給気側に回せるようになりました。
暖房や冷房といった温湿度調節された空気を再利用し給気できるので、空間の状態をコントロールしたまま省エネルギーへ貢献することが可能になります。
水洗ブースでも水系塗料であれば理論的には再利用可能ですが、排気中に水洗ブースの湿気が含まれることから除湿する必要があり、空調の軽減というメリットは感じられにくいです。
また、水性塗料の中には有機溶剤が含まれるものもあるので、使用前に必ず確認しましょう。
装置の工夫により、ブース稼働中でもフィルター交換ができるタイプの乾式ブースも登場し、
徐々に乾式ブースの価値が見直されてきています。
乾式塗装ブースについて知らない事実ばかりで驚きました!
でも、フィルターの交換だけしていれば性能はずっと維持されるのでしょうか?
実は、フィルターの交換だけではいつか使用できなくなってしまうかも!
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