工業分野の洗浄現場で使用されている洗浄剤には数千もの種類があるとされています。
その中でも有機溶剤系洗浄剤は、オゾン層保護や作業者の保護といった観点から管理基準が時代の流れに沿って大きく厳しく変化しています。
こちらの洗浄現場でも有機溶剤系の洗浄剤を使用している困ったさんがなにやら悩んでいるようです。
うちでは塩素系洗浄剤を使用しているのですが、
噂で「使用禁止になる」と聞きました・・・
近年管理基準が厳しくなっていたとはいえ、不安です・・・
おやおや、お客様。まだ塩素系洗浄剤を使用していたのですか?
環境にも人にも優しいこちらの洗浄剤を代替品としてオススメしますよぉ~
ん~でもその洗浄剤、初めて見ました・・・
本当に代替品なんですか?
もちろんですとも!すでに100社に導入しています!(嘘だけど、ヒヒッ)
お客様も『危ない洗浄剤』から身を守るためにぜひご購入を!
(本当は“使用禁止ではない”、なんてこと言わないぞぉ~ヒーヒヒッ)
そんなに実績があるんですね!
じゃあうちも導入をお願いしま・・・
ちょっと待てぃ!
たしかに基準は厳しくなっていますが、使用禁止ではありません。
出たな、洗浄ブルー!
お客様、あいつの言うことは信じてはいけませんよ!!
そのままお返しします!
塩素系洗浄剤を含めた有機溶剤系洗浄剤は正しく使用すれば
環境負荷を抑えた高品質な洗浄ができます。
間違えた情報を鵜呑みにするところでした!
正しい使用方法を教えてください!
くそぉ、なんでいつもやられてしまうんだ・・・
次こそは絶対に・・・キィーーー!!
有機溶剤系洗浄剤とは
有機溶剤とは他の物質を溶かす性質を持つ有機化合物の総称であり、塗装、洗浄、印刷など様々な現場で幅広く活用されています。
有機溶剤の高い溶解力を活用した洗浄剤が有機溶剤系洗浄剤であり、非水系洗浄剤や溶剤系洗浄剤と呼ばれているこれらの洗浄剤は、水を含まず酸やアルカリなどの液性を持たないため、金属を腐食しないというメリットがあり、油脂に対して優れた溶解性を発揮することが特徴です。
有機溶剤系洗浄剤の種類
有機溶剤系洗浄剤内には種類があり、今回は大きく2つに分けて解説いたします。
- 可燃性洗浄剤
例:炭化水素系、アルコール系、シリコーン系など - 不燃性洗浄剤
例:フッ素系、塩素系、臭素系など
上記の中でも特に不燃性洗浄剤である塩素系や臭素系は、洗浄能力が高いにも関わらず危険であるイメージが強いため、代替品へと移行する現場が増えています。
“危険”だという認識は間違っていませんが、本当に危険な要素ばかりなのでしょうか?
下記にメリット・デメリットをまとめてみました!
塩素系洗浄剤 |
臭素系洗浄剤 |
|
メリット |
・不燃性 ・油分溶解力が強い ・蒸留再生が可能 ・浸透性がよく細部の洗浄も可能 ・他洗浄剤よりランニングコストが低い ・乾燥性がよい |
・不燃性 ・油分溶解力が強い ・蒸留再生が可能 ・浸透性がよく細部の洗浄が可能
|
デメリット |
・毒性が強い ・法規則に抵触する ・再生ロスが大きい ・金属が錆びる場合がある ・有毒ガスが発生する場合がある |
・ランニングコストが高い ・毒性などのデータに不明点がある |
両洗浄剤とも強力な洗浄力が魅力ですが、同時に環境への負荷も高く、規制や削減の方針も打ち出されています。
しかし、正しい使用方法を遵守することで使用は可能であり、高レベルな洗浄を実現することができます。
しっかりとルールを守れば使えるのだ~!
でもなんで危ないことが分かったのだ~?
洗浄剤を含めた有機溶剤による被害が発生したからです。
厳しい法規則ができた背景を知り2度と同じ被害を繰り返さないよう
確認してみましょう。
洗浄剤の歴史
有機溶剤系洗浄剤は、洗浄液が安価でありながら高い洗浄力を兼ね備えている点やリサイクルしながら洗浄できる点から工業分野の洗浄工程で長く使用されてきましたが、毒性があることが判明し、法規則のもと厳しい管理が義務付けられています。
では、管理を怠るとどんな事態になるのでしょうか?
①胆管がんの集団発生(2012年)
概要 | 塩素系洗浄剤を使用していた印刷工場の従業員に胆管がんが発症 |
原因 | 洗浄剤に含まれていた「1,2-ジクロロプロパン」が発症原因である可能性が高い しかし、当時の法による規制の対象外 |
影響 |
規制のない化学物質を含む全化学物質に対し、危険有害性およびリスク低減措置に関して再検討 その結果、SDS交付義務対象の化学物質についてはリスクアセスメントも義務化 |
②膀胱がん発症事案(2015年)
概要 | 染料および顔料の中間体を製造する現場の従業員に膀胱がんが発症 |
原因 | 使用した手袋をオルトートルイジンを含む有機溶剤で洗浄後、繰り替えし使用していたため手袋を通じ皮膚にオルトートルイジンが接触・吸収されていた |
影響 | 皮膚から体内に吸収され健康に影響をもたらす可能性が高い物質によるがん発生防止のため、保護衣等に関する改正を実施 |
有機溶剤系洗浄剤は不適切な使用から上記のような被害が発生する可能性が高いですが、洗浄力の指標とされるKB値が高く、不燃性であるため、管理基準を守り正しく使用すれば設備費用を抑えられ、高い洗浄品質が得られます。
優れた能力を持つ反面、正しい取り扱いをしないと危険な一面があるため、作業者を守るためには人体および環境への影響を考慮した内容である法規則に則った扱いをすることが重要です。
現在の有機溶剤に関わる規制
様々な被害や研究が重ねられ、現在の厳しい内容の法規則が出来上がっています。
法規則には私たちが有機溶剤系洗浄剤を使用するにあたり、作業環境、化学物質の排出量把握・届出、水質汚濁防止など健康への被害を防ぐために遵守・管理しなければいけない内容が記載されています。
このような管理を義務付けている「有機溶剤中毒予防規則」および「特定化学物質障害予防規則」についてご紹介します。
有機溶剤中毒予防規則
「有機則」と呼ばれることが多いこの規則は有機溶剤の安全基準を定めており、工場や作業現場における有機溶剤使用時の中毒を防止するための省令です。
対象有機溶剤は一般的に高揮発性で蒸気となり、呼吸することや皮膚から吸収されることで作業者の体内に取り込まれるため、作業者の健康を害する可能性があります。
これらの対象有機溶剤を取り扱う際に守らなければいけないこととして、
・作業主任者の選任
・有機溶剤上記の発散源対策
・作業環境測定の実施
・作業者の健康診断の実施
以上のような業務があり、従わなかった場合は6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
特定化学物質障害予防規則
「特化則」と略してよく聞くこの規則は、健康被害を引き起こす可能性がある特定化学物質から作業者の健康を守るために作業方法や設備などのルールを定めています。
特定化学物質は合計74種類あり、塩素系洗浄剤として用いられているジクロロメタンやトリクロロエチレンなどが対象です。
特に第一類・第二類には発がん性の高い物質が多く含まれているため、体内に吸収してしまうとがん、皮膚炎、神経障害などを発症し健康を害する恐れがあります。
これらの対象有機溶剤を使用する際には、
・換気装置の設置
・全面系マスクの着用
・作業環境測定の実施
・作業者の特殊健康診断の実施
以上のような措置を講じなければいけません。
塩素系・臭素系洗浄剤の使用
近年、塩素系・臭素系洗浄剤をとりまく状況は変わり続けています。
例えば下記の年表にあるように、オゾン層の保護に大きく影響を与えるという観点からフロン113、1-1-1トリクロロエタン、HGFC141b、HCFC225は既に生産中止となっており、現在使用することはできません。
1995年 |
フロン113、1-1-1トリクロロエタンの生産中止 |
2003年 |
HCFC141bの生産中止 並行してトリクレン、塩化メチレン、臭素、炭化水素への代替増加 |
2014年 | 塩素系洗浄剤3種(トリクロールエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン)が特定化学物質障害予防規則該当物質となり管理が厳しくなる |
2019年 | HCFC-225の生産中止 |
2023年 | 臭素(1-ブロモプロパン)がリスクアセスメント対象物質に追加 |
さらに2003年から炭化水素等への代替が増加していますが、ここまで解説してきたように塩素系・臭素系のような有機溶剤系洗浄剤は法規則に従って管理を行うことで使用が可能ですが、その管理は手間や費用が掛かるうえ、近年のSDGsのような環境保全の流れに逆らった影響が想定されます。
塩素系・臭素系洗浄剤はルールを守れば環境への影響を
抑えた洗浄剤となりますが、それでも炭化水素などの洗浄剤と
比較するとSDGs達成にはマイナスなイメージがあります。
健康と環境への影響を考え炭化水素系や水系洗浄剤の検討を
おすすめするのじゃ!
有機溶剤系洗浄剤について詳しく教えていただき
ありがとうございます!
法規則に従って正しい管理をこれからも徹底します!
ご相談・お問い合わせはこちらなのだ!